古来、めでたい動物としてはツルとカメ(海亀)が双璧ですが、二種ともかつて霞ケ浦に生息していたことが、「常陸国風土記」に記述されています。
茨城郡高浜の条には「洲の波打際には、飛び舞う鶴の姿が見られる」とあります。また、信太郡浮島の条には「海亀の甲羅を焼いて占いをしている」と記され、当時内海であった霞ケ浦の自然の豊かさを知ることができます。
現代の霞ヶ浦では、湖岸は人工護岸となり、逆水門によって淡水化され、鶴や海亀の再来は不可能、とだれもが思っていました。
ところが、鶴の一種、タンチョウが一羽、平成四年(一九九二)四月二十九日に浮島湿 原に飛来したのには驚きました。発見者は、国立環境研究所の春日清一さんで、これを報じた新聞記事によると、関東地方では、一九七六年に千葉県印旛郡の利根川で記録されて以来ということです。
タンチョウは、日本では絶滅の危機に瀕していましたが、保護の結果、釧路湿原を中心に約五百羽まで回復しています。また、ロシアや中国の鳥学者の調査によると、アムール川や支流のウスリー川、松花江流域に約千二百羽が生息し、冬季は揚子江や朝鮮半島の三十八度線の非武装地帯で越冬するということです。
四月二十九日に霞ケ浦に飛来したタンチョウは、当日台風なみに発達した低気圧による 強風に流されて、大陸からやってきたのかもしれません。
浮島湿原、妙岐の鼻と筑波山。