今秋(平成二年、一九九〇)の異常な暖かさで霞ケ浦周辺の刈田のひこばえが二番穂を 出し、結実しました(七十七話)。ひこばえの稔りは、餌不足の厳しい冬を過ごす野鳥たちにとって、うれしいプレゼントになります。
霞ヶ浦で越冬する約四万羽のカモ類は、日中は湖面で休み、夜間に周辺の水田や湿地で雑草の種子 やわずかな落ち穂を食べますが、ひこばえの稔りのおかげでこの冬は飢えずにすむかもしれません。
霞ケ浦にはガン類も少数ですが渡ってきます。ガン類は森鷗外の 名作「雁」に描写されたように、昔は上野不忍池や葛西、行徳付近の湿地に多数渡ってきたのですが 開発に追われ、現在では、霞ケ浦が越冬の南限になってしまいました。
江戸崎町稲波干拓地と引舟地区が渡来地で、昭和五十九年(一九八四)ごろからヒシクイというガンが約五十羽毎年越冬しています。ヒシクイも人気のない刈田で餌を探します。この場所は、関東における唯一のガン類の安定した渡来地として 注目され、平成三年一月十二日には、江戸崎町中央公民館で全国のガンの研究者を集めてシンポジウムが開催され、これを契機に稲波干拓地が鳥獣保護区に指定されました。
ガンが、サオ型からカギ型へ形を変えながら編隊飛行する様子は昔から日本人に親しま れ、「月に雁」は日本画の代表的構図です。霞ケ浦でもガンの編隊飛行が普通に見られるようになればすばらしいのですが。
ヒシクイ観察会の一コマ。江戸崎町の干拓農地は関東地方で唯一 のガンの越冬地。この近くに首都圏中央連絡自動車道が計画されて いることから反対運動がおきている。オオヒシクイかヒシクイか