住まいの文化 |
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建築文化史家 一色史彦 | |
(六)小町伝説の里 | |
寝殿造の細部に立ち入る前に、もう少しの御辛抱をいただいて私の夢物語にお付き合い下さい。 新治村に小野という集落があります。まことに穏やかな、温かみのある里でここに小さくとも水面があれば、それこそ平安貴族好みの空間になります。平泉の毛越寺、白水の阿弥陀堂の環境と良く似ています。平安貴族はこのような場所を選んで別荘を構えたのです。小町伝説が生まれるのは当然のことと感じられる所であり、小町がここに骨を埋める気持ちになったのも分かるような気がします。 私の夢の舞台は、ここ小野の里の一町四方(この広さについては後で解説します) の敷地に建つ寝殿造です。広縁に腰を下ろして、不思議なことにいつも一人、ぽつねんと軒端(のきば)の月を眺めています。築地塀の向こうには黒々とした山並み、眼前には月光に映える白砂の庭、南池の岸辺に植えた柳の枝、そして邸内にはだれもいないという情景なのです。 |
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この新治の地には、平安末期の末法の世界から逃れるために貴族達が競ってつくった経塚遺跡のなかでも特に有力な遺構があったり、坂東札所二十六番の清滝観音、美しい庭園と枝垂れ桜で知られる向上庵などが点在しています。ここに足を踏み入れると、平安文化の香りが感じられます。私の夢をしばらくは棚上げさせたのは、この美しい浄土空間をぶち壊しにする採石現場が未だに操業中という現実であります。 | 坂東札所二十六番の清滝観音 |
向上庵 枝垂櫻(県指定)が有名。 |
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