住まいの文化 |
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建築文化史家 一色史彦 | |
(五)十二単衣の夢 | |
大学院に進んだ頃、ちょうど東京オリンピックの直後のこととて、世の中は高度経済成長期にありましたが、私の関心はまことに浮き世離れした方向にむいていました。 たまたま研究室での私の席の背中に鎌倉幕府の公式記録と云うべき「吾妻鏡」が並んでおりました。それこそもっとも手近な読み物でした。原典を読むことがこれほどに面白いものかと感激したものです。あらゆる社会現象が盛り込まれているのです。いわゆる歴史学の専門家というものは自分の研究テーマの部分だけを抜き出している似すぎないことを知りました。人間生活の営みは誠に多岐で多彩なものです。 これを完読したあと、それに続けて並んでいた「大乗院寺社雑事記」と云う奈良興福寺の別当の書いた日記を読み始めました。これもまた面白いこと。応仁・文明の大乱という、それこそわが国の歴史上に未曾有の混乱を招いた動乱のまっ只中の社会が生き生きと描き出されています。 京都からちょっと離れた位置から、しかもその当時最高の文化人であり、関白太政大臣を務めた一条兼良の子息という立場からの観察記ですから、一種の内幕物というべきものになっています。 この筆者はそれこそよく夢を見るのです。私もこの本を読んでいるうちに、貴族階層の住まい、寝殿造という住宅様式に関心が向き、ついには十二単衣(じゅうにひとえ)の女性が夢に登場するくらいにまでなっていました。これから数回は寝殿造についてお話しします。 |
*十二単衣 *吾妻鏡 *大乗院寺社雑事記 |
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