人生と同じように湖沼にもエイジング(加齢)があります。地殼変動などが起きない限 り、湖沼は誕生後、流域から土砂、泥、有機物が流入し、プランクトンなどの生物の遺骸とともに底に堆積して、数万年から数百万年かけて次第に浅くなり湿原化していきます。
この過程は「遷移」と呼ばれ、生態学の基本概念の一つです。山形県赤湯盆地の白竜湖、長野県諏訪盆地の諏訪湖などは老年期の湖です。一方、福島県檜原湖は明治時代の磐梯山の噴火によって誕生した新しい湖です。
霞ケ浦の場合、内海から汽水湖となった年代を特定できないので、誕生、幼少年期、青年期がはっきりしませんが、現在は既に壮年期から老年期に入りつつあるようです。自然条件下では湖沼の遷移は緩慢ですが、霞ケ浦では流域住民の諸活動によって老化に拍車がかかっています。
霞ケ浦には推定約五千万立方メートルの底泥が堆積しており、さらに一年に百万立方メートルが流入し〇・五センチメートルずつ浅くなっています。平均水深は約四メートルですから、霞ケ浦は約八百年で湿原化する運命にあります。建設省は 浚渫船を一年に四カ月稼働させて 土浦沖と高崎沖で約十万立方メートルの底泥を採取しています(平成元年当時)。フル稼働させれば 三倍の性能があるそうですが、底泥の捨て場がない悩みをかかえています。
霞ケ浦は縄文期以来、多くの幸 を人々にもたらし、今なお、上水・農水・工水として利用されてい ますが、その老化をとどめ、若返りのために私たちに何ができるのかを真剣に検討する時期にきています。
土浦港の浚渫船。平成3年に、建設省は土浦港の全面浚渫を行っ た。この後、土浦入と高浜入で平成12
年度までに約800万立方メ元の 底泥浚渫が行われる。